銀 河 鉄 道 の 出 発


空を眺めていた。雲一つない五月晴れだ。 そうやってぼうやりと立ったり座ったりしていると、何かが落ちる音がした。 音の方向を見るとそこには妹のプリュイが立っていた。その表情は驚いていた。 「シエル・・・30分以上はそこにいるよね・・身体平気なの?!」 どうやら俺を心配して言うようだ。ちなみにシエルと言うのは俺の名前である。 「平気だからいるんだよ」 そう、プリュイに告げた。プリュイはむっとした表情のままだ。 俺が病気になってからしっかりし始めたのはいいが、逆に監視の目が厳しくなった気がして困る。 「発作出てからじゃ遅いんだから、とっとと戻るのっ」 結局俺は強制的にベッドに戻る事になってしまった。俺からすれば哀しい事だ。 残りの時間はもう僅かだから。 急に苦しくなって倒れたかと思えば、3日経過していて。 まともに話が理解できるようになって、治らない病気だって知らされて。勝手な話だ。 いつ逝っても可笑しくないらしいし、もって半年と言われたがもう2年経過している。 不思議な事もある物だ。奇跡って奴か? でも最近また変な発作が出る事も多くなったし、自分でも弱ってるなーって感じてる。 だから、奇跡もお終いに近づいている。 家の中というのは非常につまらない。出来るのは読書や家中の探索くらいだ。 前までは外に出る事もあったが最近になって、 発作の回数が増えたとたんに「外に出るのは30分くらい」という制限が出来てしまった。 夜も勿論駄目になって・・楽しみが減った。 それは昔のプリュイみたいに、空想が好きになってしまった俺の唯一の楽しみだ。 プリュイには恥ずかしくていえないけれど。 ・・・退屈になってきたので眠ることにした。今日は沢山寝よう。そして夜にこっそりと抜け出そう。 そう決心した俺は、そのまま眠りについた。 夜になり、抜け出したかと思えばプリュイがいた。 物音を出してしまったせいで俺の事がばれてプリュイはいつものように怒鳴った。 「お前はいつから俺の保護者になったんだ?」 「話を変えないでよ・・・本当に心配なんだからねっ?」 心配しているという事は分かっている。だけど心配をされるのは俺にとっては嫌な話だ。 「別に心配される理由なんてないな」 「シエルのバカ・・もう好きにすればいいんだよ」 そう言われなくてもそうさせてもらうつもりだ。俺はとりあえずプリュイから離れた場所に座った。 星を眺めていた。正しくは、夜空に広がる宇宙の星だけど。 そうやって長い時間はすぎているように感じた。プリュイは相変わらずすねていた。 こういうところは今も昔も変わっていない。進歩してないと言うか、なんというか。 「あっ、シエル」 戻ろうとした時、突然プリュイが話しかけてきた。小さな声で「何?」と尋ねた。 「流れ星・・」 「は?流れ星?」 俺は思わず聞き返した。プリュイは我に返ったらしく焦っている。 何をそんなに焦っているのか俺には分からなかった。 「じゃなくてじゃなくて・・・あ、そうだ。シエル覚えてる?」 「何をだよ」 何を覚えているのかを言わないと俺にだって分からない。 「もー・・忘れっぽいのは相変わらずだね。何年か前に太古の国の物語でさ、 宇宙を走る列車の物語を一緒に読んだの覚えてる?」 「あー・・お前が目を輝かせて読んでいたやつか。あれがどうした?」 「この空走ってそうだよねー・・乗ってみたいなー・・宇宙見たいしね」 ああ、そういうことか・・この空を見ていてなんでそう思ったのか知らんが確かに走ってそうだ。 「勝手に一人で見に行ったら・・?それはそうとお前、空想は好きじゃなかったんじゃないのか」 「あれは・・現実じゃない事が好きな子は将来とんでもないことになるってのを信じたから・・」 声がだんだん小さくなる。そしてプリュイは無理矢理話を戻した。 「って違うでしょ?!列車に乗ったら・・火星や土星見れるかな?あと月も」 「見れるんじゃないのか・・?宇宙だし」 「シエルは素っ気無いねー・・」 「乗れるとすれば俺が先に乗るかもな。だって・・うっ」 ・・なんか変だ。頭はぼんやりして胸は痛くて苦しい。 「シエル?」 そんな声が聞こえたけれど苦しくて返事が出来ない。視界にはプリュイがいるのに声何も聞こえない。 そう言う状態が続いたと思ったら、目の前が真っ暗になった。言いたくても言えなかった。だっての続きを。 ”あの話が現実になるのであれば、列車は亡くなった人を乗せていると思う”と。 次の目を覚ましたのはまた夜だった。夜と言っても、1日経った夜だ。 妙な気分だった。いつもとは何かが違う。苦しいし、力も出ない。死んだのか? 「シエル?」 プリュイがいた。まだ死んでいない・・と思う。でなければプリュイに会えない。 「プリュイ、俺が・・目を覚まさなくなったら・・・こう考えろ・・・」 プリュイは何で泣いているんだ?俺はまだ逝かないのに永遠の別れをするみたいな表情をして。 「俺は・・宇宙を旅・・・しに・・行った、と」 無言のままのプリュイだったが、俺は急がねばと思い話を続けた。 「ほらさっきまで話してた・・何年か前に、読んだどっかの国の・・・有名な物語で・・ あっただろ・・宇宙だかを旅する・・列車があるって。 俺はそれに乗るんだ・・乗って、沢山の・・宇宙の星を・・・・・終点まで・・見るんだ・・・」 「どれくらいで帰って来るの?」 何でプリュイは涙目なんだ・・ 「・・・また・・・ここで俺が目を覚ましたとき・・だな」 「それはいつなの?」 プリュイ・・お前本当にしつこいな・・そのしつこさもお前の良い所ってか? 「・・・さあな。で、でも必ず・・・」 急に眠くなってきた・・・まだ伝えきれてないのに神様って奴は残酷だ。 「か・・・な・・ら・ず・・お・・・ま・・えの・・」 ”必ずお前の所に帰る。それだけは約束する” こう言いたかったんだけどな・・そろそろ発車時刻だがら行かないと行けないみたいだ。 言えなかったのは悔しいが、それまで留守番よろしくな。 「・・・・シエル、楽しんできてね。御土産は月か土星だからね。」 俺が現世の人間でなくなって、初めて聞いたプリュイの言葉。 返事が出来ないのが哀しい。でも御土産がそれなのもな・・スケールが大きすぎる。 それもプリュイらしいから良いんだけどさ。 宇宙の星を沢山見て、今度会う時に沢山話してやるからな。それまで待ってろ。 お前がおばあさんになっていても、必ず戻ってくるから。 『行ってきます』 俺を乗せた宇宙を巡る列車は、動き出した。
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