道 化 師 と 向 日 葵


「ねえーお兄ちゃん?」 「何だよ」 少女が少年に問い掛けた。 「夏だけにしか見れないお日様見たいのー」 少女の手には絵本が握られていた。 どうやらその絵本に少女が”夏だけにしか見れないお日様”の事が描かれているようだ。 少年は少女から絵本を奪うと、その絵本を読み出した。 確かに”夏だけにしか見れないお日様”の文章とクレヨンで描かれた挿絵がそこにあった。 「なんで俺に言うんだよ」 「だって・・お兄ちゃん前に”誕生日プレゼントはお前の願いを3つ聞いてやる事”って言っていたから」 「・・・・言ったっけ?」 「うん。物よりもそっちの方が印象に残るからって」 少年は少女の誕生日の事を思い出していた。そしてようやく思い出した。 確かに少年は3つ願いを叶えると言っていた。理由は金欠だったから。 その為、誤魔化すかのように妹である少女にそう告げていたのであった。 少年は自分の言った事の重大さにようやく気付き、溜息をついた。 「それ、太陽って言うより花だよな?」 「・・・うん。でも夏しか見れない太陽だって。」 「そうか・・」 しばらくして、少年は少女の手を握り家を飛び出した。 少女は突然の出来事の少々戸惑いを見せていた。 「すみません。これって何処で見れますか?」 少年は近くにいたおばさんに声をかけ、少女の絵本に描かれた”夏だけしか見れない太陽”を見せた。 おばさんは何も言わずに首を横に振るだけであった。 まだ1人目だしな、と少年は気楽な気持ちで捜索を始めた。 少女もようやく少年が何をしているのかに気付き、胸を弾ませていた。 しかし物事はそう簡単には上手く行かなかった。 「何で見つからないんだよ・・名前位分かったって良いのに」 少年は道行く人々に手当たり次第聞いた。 しかし全員が首を横に振り、見たこともないと答えた。 「ねえお兄ちゃん・・・見れるかな?」 「五月蝿いなあ・・・・お前は黙ってろ!大体なんで見たいだなんて・・」 少女が不安になり始めた。苛立つ少年は少女に当たった。 「ごめんなさいー・・私が・・見たいって言わなければ・・もう我侭言わないから怒らないでー・・」 「あ・・えーっとその・・」 突然泣き出してしまった少女に、少年は戸惑い出した。 少年は少女をなだめ始めた。 「な・・泣くな・・お兄ちゃんが見つけてやるから・・・な?」 『おやおや。兄妹喧嘩ですか?』 背後から突然声がした。少年はその声に驚き振り向いた。 少女は泣き止み、おっきいピエロさんだーっとはしゃいでいる。 少女の言うようにそこには背の高いピエロのような男が立っていた。 「誰だ?!・・・この辺りの人間じゃないな」 『私ですか?私は只の放浪人です。・・聞けばどうやらお困りのようで』 何で困っている事を知っているんだと少年は思いつつ、黙って男の話を聞いた。 『ふふっ・・その表情を見ると・・私は何でも知っているんですよ。夏にしか見れない太陽を御探しで?』 「うんっおっきな夏のお日様ー」 少女は男の問いかけに素直に答えた。少年は思わず少女の口を塞いだ。 『素直なお嬢ちゃんですね・・では私が叶えましょう・・・涙は似合いませんし』 「お前に叶えてもらいたくなんか・・・」 少年がそこまで言いかけた時、男は手を叩いた。すると辺りが眩しくなった。 その眩しさに、少年と少女は思わず目を閉じた。 まぶたの裏が赤くなり、だんだん黒くなり始めた頃に2人は目を開けた。 「お日様沢山ー」 少女が嬉しそうにはしゃいでいた。少年はその光景に驚いていた。 辺り一面に絵本に描かれていた”太陽の花”が咲き乱れていたのであった。 しかしそれは幻影だったらしく、まもなくして消えた。少女は残念そうに俯いてしまった。 『どうでしたか?』 「・・悔しい」 『どうしてです?』 「俺が叶えるはずの願いをお前が叶えたから」 ああ、と男は言った。少年は少女以上に落ち込んだ様子だ。 すると男は白と黒の縦じまの模様をした種を少年に手渡した。 少年は首を傾げてこれがなんなのかを尋ねた。 『それはですね・・さっきの太陽を咲かせる種なんですよ。』 「何で俺に?」 『お嬢ちゃんはきっと本物を見たがっていると思いましてね。』 「どうやったら育つんだ?」 『普通に育てる花と同じですよ。夏に植えて下さいね』 「何で持ってるんだ?」 『それは私が放浪人だからです』 「・・あっそ」 『今年はもう遅いですから来年ですね』 「・・あんがと。最後に聞いて良い?これなんて言うの?名前」 『確か向日葵・・でしたね。』 「ふーん・・ま、頑張ってみるよ」 『頑張って下さい。では私はこれで』 一連の会話が終わると、男は姿を消した。 少年の隣で少女はピエロさんバイバイ、と手を振った。 「なあ・・」 「なーに?」 「本物みたいか?」 「うんっ」 少女は満面の笑みを浮かべた。少年は胸をなでおろした。 「じゃあ・・来年になるけど俺が本物見せてやるっ」 「本当?」 「ああ」 「楽しみにしてるね!」 2人は仲良くてを繋ぎ、家に向かった。 こうして少女の一言から始まった1日は終わった。 そして少年が少女の願いを叶えるのはまだ先となった。
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