風 邪 っ ぴ き の ク リ ス マ ス


クリスマス。正しくはイヴ・・・・・風邪をひいた。 「ったく帰省早々、何やってんのお前」 本当になぁ・・・言われなくても分かってるよ。兄貴。 その時丁度体温計の音が鳴った。取り出せば、熱があることが分かった。 別にだるくもないし、フラフラする事もない。ただ咳が止まらないだけ。 「食事は持ってきてやるからその辺フラフラするな」 「本当、悪いねー・・皆に」 イヴは何故か親戚が集まってワイワイやると決まっている。 今日も叔父さんに叔母さん達が集まっている。 でも俺は参加が出来ない。何故ならこんなんだから。少しだけ楽しみだったから辛い。 兄貴が部屋から出ていったのと同時に、布団の中に潜りこんだ。 楽しそうな声が聞こえるのが嫌だから、出来るだけ聞こえないようにした。 早く今日が過ぎれば良い。過ぎればこんなに辛くならなくて済むから。 ・・・・あ、明日は約束が。どうしようか。多分と言うか絶対今日で治る訳がない。 暇だし、メールでもするか。そう思い、近くにあった携帯に手を伸ばした。 "明日の事だけど、風邪ひいたから無理かもしれない" たった一言そう書いて、送信した。数分して、返事が来た。 "バカ・・・実家何処?殴りに行く" 不機嫌そうだった。無理もないか。・・実家は教えないでおこう。殴られたくない。 あいつの腕力は半端になく強いから。 "本当、ごめんなー・・正月はちゃんと一緒に行くから" 話をはぐらかしてみたのは良いが、良いから実家教えろと言うメールがすぐに来た。 どうやら本気のようだ。さて、どうやって話をまたはぐらかそうか。 無視しても良いけど、そしたらまた正月に復讐をされそうで怖い。 どうするかなー・・・・そう悩んでいると、だんだん眠くなってきた。ようやく薬が効いてきたのだろうか? そのまま眠りに就いた。もうどうでもいいと思いつつ。 * 「・・・・・・・・・・」 目が覚めた・・そんなに時間は経っていないはず。何故ならまだ少し騒がしいから。 丁度ノックする音が聞こえた。適当に返事をした。多分兄貴だろう。さっき食事を持ってくると言ったから。 しかし入ってきたのは違う奴だった。従兄弟の由生(ゆう)であった。 「一咲(いっさ)兄はおばあちゃんと一緒に、うちとそっちの両親介抱してるから」 聞こうと思った事を聞く前に答えてくれた。勘だけはこいつが1番鋭いんじゃないかと思う。 由生は持ってきた食事を置くと、こんな事を言った。 「流兄もバカだねー・・こんな時期に風邪なんてさ」 何でこいつもバカというんだろう?さっきのメールを思い出した。 呆れて返事を返す気力もなかった。だから適当な話題に切り替えた。 「此処に住んでいてどうよ?」 「別に?」 即答だった。これじゃあ会話が続かない。 どうしようかと迷っていると、奴がまだ包帯を巻いている事に気付いた。 「・・・怪我もしてないのにまだしてるのか?あの出来事から大分経っているのに。」 「っ、流兄も五月蝿いな・・ほっておいてくれる?」 またしても即答。なんでこうも噛み合わないんだ。 「ねえ流兄」 今度は由生から声をかけてきた。どうやら言いたい事があったらしい。 「明日は彼女とデート?」 そんな事を聞かれて、驚いた。そして咽た。由生が大丈夫?と聞きながらもさすってくれた。 「なんでそんな事聞くんだよ?」 「クリスマスは恋人とデート、でしょう?」 確かに約束はしていた。そしてさっき断りのメールを入れた・・・なんて言える訳がない。 「その状態じゃ無理・・か。」 分かりきっている事を言うなよ。少しイライラした。 「そんなことはどうでもいいや。何となく聞きたかっただけだし」 「・・で?だからどうしたいんだ」 「うん。それなんだけどね。」 そう言いながら小さな包みをを取り出した。あげるよ、と由生が一言。 中を開けてみると、シルバーの十字架のペンダントが出てきた。 「クリスマスだからプレゼント。流兄、そう言うの持ってないでしょ?」 「・・・・ありがとう。何もあげられないけどさ」 「別に良いよ」 何だか嬉しくて、涙が出そうになった。でも泣けば、また熱が出そうだ。 「まだ下が騒がしいから、静かになるまで相手になるよ。ってか、ご飯食え。冷める」 そう由生が言う。部屋で過ごすクリスマスイヴは初めてだけど、なんだか何時もより楽しかった。
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