君 を 救 う 為 に


「先生」 白い空間に響いた小さな声。薄い青を纏った人間。 それに反応するのは同じ白の人間であった。 その反応を見た声の主は、こう言った。 「何時、治るのですか?」 決まって白の人間はこう答える。 「まだまだ先だよ。何時かまでは言えないけれど」 薄い青を纏った人間も決まってこう答える。 「そうですか」、と。 毎日飲む薬を貰う度にこの言葉の投げ合いがある。 それは1字1句変わらない投げ合いであった。 飽きるほどに続いたそれは、 薄い青を纏った人間が急変して幕を閉じた。 「せん・・せ・・い」 白の人間は驚くほどの冷静さで反応した。 「何時・・・な、おるの・・・で・・す、か・・?」 白の人間は初めて別の言葉で答えた。 「もう直ぐだよ」 薄い青を纏った人間は、とても嬉しそうであった。 無理矢理笑ったその人間は、目を閉じて動かなくなった。 数日後。 白の人間は遺体となった人間が日々を過ごした、あの空間にいた。 空のベッドしかそこにはなかった。 「こうするしかなかったんだよ」 白の人間は自らの手の中を見た。 そこには動かなくなる前日に渡した薬があった。 遺体となった人間への最後の薬である。 「一晩で、治っただろう?」 そう言って、白の人間は初めて一筋の涙を流したのであった。
Back