願 い


私の住む村にやってきた旅人が宿代代わりに、って置いていった話。 「七色の妖精を見つけたら、どんな願いでも叶えてくれる。自分も自由という願いを叶えてくれた。」 どこか現実味がない話。私だって信じてはいなかった。 私以前に誰も信じる人はいなかった。ただ信じたのは宿屋の主人くらいだろう。 夢見がちな宿屋の主人はその話しを信じてその旅人を泊めた。人がよすぎる。 その旅人はいくつもの現実味のない話をいくつも残して村を後にした。 雪男に出会ったとか、天使と遭遇した時あの世に連れて行かれそうになったとか・・そんな話。 それから何年経ったのか。双子の兄が病に倒れた。 治す方法は見つからないらしい。いわゆる不治の病という奴だ。 そう、私は唯一の家族である兄を近い将来に失う事になってしまうのだ。 もう治らないと知った時には私は大粒の涙を流したのだろう。 どうしても兄を助けたい。ずっと我侭かもしれないけれど、私の傍にいて欲しい。 村では治せないのなら、他の村や町に行けば治せる方法が見つかるかもしれない。 だから私は兄を信頼の出来るおばさんに看病を頼み、1週間の旅に出た。 1日目、住む村よりもとても大きい町へ。村から2時間歩いた場所にそれはあった。 そこにある病院で兄の病の事を話し、治してもらえないのかと頼んだ。無理だった。 兄の病は治せないと、医者は言った。何度聞いても答えは同じ。 何十回も聞いた所で、私はようやく諦めた。そして次の町へと向かう。 2〜3日目は歩いていた。大きな国へ行く為に。 4日目。その大きな国へと辿り着いた。後は同じ様にそこで最も信頼のある医者に 1日目と同じ事を聞いた。結果はやっぱり同じだった。 兄はもう治す事は出来ない。そう告げられた。また何十回も聞いた。声が枯れるほどに。 それでも答えは同じ。また沢山の涙を流した。 5〜6日目、また歩いて村へ戻る。ショックが大きく足取りが重い。 7日目。村へは戻りたくないと思った私は無意識の内に森へ入った。 そして見つけてしまった。あの日旅人が言っていた「妖精」を。 信じていなかった妖精が目の前にいる。信じられない。だけど今は信じるしかない。 だから思わず私は彼女(彼?)に話しかけた。「私の願いを叶えて」と。 妖精は「無理だよ」と答えた。私は必死でお願いだからと叫び、訴えた。 それでも妖精はあの時の医者と同じように答える。 もう嫌だ。何度も「無理だと」聞いて、何度も聞くのは。だから「イエス」と答えて欲しい。 『私が叶えるのではなくて、あなたの力で叶えられるんだよ。 あなたは、あの時の青年と似ている・・だから叶えられる』 何回叫んだだろうか。ようやく「無理だ」以外の言葉を聞いた。 不治の病を私が治す?どうやって?そしてあの時の青年って? 疑問だらけだった。その疑問を聞こうとして、また妖精はこう言った。 『私は願いを叶えるんじゃなくて、願いを叶えるのを助けるの 1日でも長く生きるように努力して・・私の役目はこれで終わり』 言葉の意味がわからない。「そうするにはどうすればいい?」と聞こうとした時、 いきなり消えてしまった。突然目の前に現れて突然消えるなんて急過ぎる。 だけど今はその言葉を信じてみる以外、私には何も出来ない。 急いで村に戻って、兄の元へ行った。1週間前よりも弱々しかった。 私のせいなのか?それとも別の原因で?それは分からなかったけど、 とりあえず兄に謝った。兄はもうどこにも行くなと、小さい声で言った・・ように聞こえた。 何かを言ったのには間違いない。こくん、と無言で頭を頷いた。 その後一緒に1日でも長く一緒にいたいが為に、私は兄の傍にずっといて、看病をすることにした。 嘘のようかもしれないけれど、兄は少しだけ元気を取り戻していた。 1日でも長く一緒に生きていれば、もしかしたら不治の病が治る薬も出来るかもしれない。 今は無理だといわれているし、すぐには出来るような物でもないけれど信じていればきっと出来る。 信じて共に生きる事が長生きに繋がるんじゃないかって、気付けばそう思うようになっていた。 願いは誰かに叶えてもらう事ではない。沢山の自分の力と少しの人の力で願いは叶っている。 それが、妖精から学んだ事。いつかその妖精との出来事と話を誰かに広めようと思う。 今日も私は生きる。兄と共に。
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