前 日 の 夢


彼は明日、無実の罪で処刑されます。 彼は混乱していたからか罪を認め、早く死ぬ事を望んでいました。 こんな穢れた人間はこの世界にいてはいけないと。 そんな彼は夢を見ました。 彼は夢の中で昔に死んでしまった恋人に出会いました。 もうすぐ君に会いに行くよ、と彼は言いました。 しかし彼女は会う事を断りました。彼は理由を聞きました。 彼女は答えました。 「私の居場所を奪ったから」と。 彼はその答えに驚きました。 自分が罪人だから会いたくないんじゃないかと思っていたからです。 さらに彼女はこう言いました。 「貴方の心の中で生きてきた私は、何処で生きればいいの?」 彼女を埋葬したあの日、彼は自分の中に彼女の居場所を与えたのです。 彼が老いて死ぬその日まで永遠に。 不治の病にかかったならまだしも、健康な身体でその命を奪われるのです。 だから明日の彼の死は、彼女の居場所を奪う行為なのです。 彼は言葉に詰まりました。 明日の死は、彼女との約束を破る事になってしまうからです。 「生きてよ。私の居場所を守ってよ」 彼女の目からは涙が流れました。しかしもう前日。無理な話でした。 何か言葉をかけようとした所で、彼は目を覚ましました。 処刑当日。彼は生きたいと願いました。 毒ガスの部屋に向かう途中、とある警官が嬉しそうに言いました。 「君の無罪が、ようやく分かったんだ」と。 裁判でも死刑判決をされていた彼。もう取り消せないのでは? そんな疑問が浮かびましたが、彼は処刑を目前にして開放されました。 「まだ、居場所を守れる」 彼は涙を流しました。 彼女が神様に無理を言って運命を変えてくれたのかもしれません。 そして彼の突然の釈放から数年後、真犯人が処刑されました。 真犯人は最後まで、何かに対して言葉を投げかけていたそうです。
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